楓橋夜泊    張継
feng1 qiao2 ye4 bo2       zhang1 ji4

背景
継が蘇州を旅し、江南水郷の秋の夜に見た独特の風景を歌ったもの。中国でも日本でも、この詩は大変有名。中国の時代劇ドラマを見ていると、この詩が背景の掛け軸に書かれていたり、登場人物がこの詩を詠ったりすることもある。

*掛け軸 : 現在の寒山寺にも立っているこの詩の石碑は、兪超の書を彫刻したもので、これを拓本にした掛け軸。今でも寒山寺の外にあるお土産屋さんで、この拓本を安く買うことができる。

 

”楓橋”とは?
蘇州市西部。現在でもその地区を”楓橋(feng1 qiao2)”と呼んでいる。ただ、実際寒山寺がある場所より西北に位置する。

”姑蘇”とは?
蘇州の別称。”姑蘇城外”といえば、蘇州城壁(蘇州の街)の外。寒山寺は、今でこそ蘇州市内に位置づけされているが、昔は(つい十何年か前でも)、蘇州市街地から離れた田舎(城外)に位置づけされていた。


楓橋夜泊



月落ち 烏啼いて 霜 天に満つ
江楓 漁火 愁眠に対す
姑蘇城外 寒山寺
夜半の鐘声 客船に到る

分析
実は、この詩の意味を分析していくと、つじつまが合わない部分があって、その解釈もいろいろある。例えば第一句;「月落ちて 烏啼く」ってちょっとおかしくないか? 月が西へ落ちていくのは夜中、そんな時間に烏が鳴くか? 天いっぱいに霜がある? 「夜半の鐘声」って、これも夜中に鐘をつくのか? おかしい・・・ と思うのが普通。

以下には、私が何冊かの本の中から、これが一番ふさわしいのではないかと思った意味を書いておく。

 

意味
夜ももう更けた。空の月が既に沈んでいっている。耳にしたのは木の上にとまっている烏の小さな鳴き声、寒さに耐え兼ねないのだろうか。霜も満天の中に光っているようだ(当時、中国では霜は空から降ってくるものと考えられていた)。河沿いの楓の木と、船の中の漁火(魚を釣る際に点ける火、いさり火)が、寝つきにくいこの旅人(詩人)に付き添ってくれている。姑蘇城外(蘇州の街はずれ)にある寒山寺。この静寂の夜の中で、鐘の音が客船(旅人の船)にまで響き聞こえてきた。


老板娘のコメント
張継は、この江南水郷を訪ね、客船を停泊させた上で一夜を明かしたんですね。寝付きにくい夜、夜が更けていっても眠れぬまま、月を見ていると、月はもう沈んでいっている。秋の夜でも、かなり冷え込んでいる。烏さえも寒くて小声で鳴いているよ。静寂の中に響く烏の声、鐘の音・・・。月明かりに照らされた河と楓。

この風景、この静寂の世界が心の中に浮かび上がってきませんか? これも”詩中に画あり”ですね。